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膵がんの遺伝子関連検査
はじめに
近年、膵がん診療においても複数の遺伝子関連検査が健康保険で施行出来るようになりました。本項では(2025年1月時点で)健康保険で施行可能な遺伝子関連検査(マイクロサテライト不安定性(MSI)検査、生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異検査、がん遺伝子パネル検査)、およびそれに基づく治療について解説します(表1)。
表1 健康保険で施行可能な遺伝子関連検査、およびそれに基づく治療のまとめ
MSI検査
MSI検査は、がん細胞におけるDNA修復機能の異常を調べる検査です。遺伝子のミスマッチ修復機構(MMR)が正常に働かない場合、DNAの複製エラーが修復されず、MSIが高い(MSI-High)状態となります。
がん組織検体を用いて検査を行い、検査結果は約2-3週間程度で判明します。膵がん患者におけるMSI-Highの割合は約1-2%と報告されています。MSI-Highであることが判明すれば、免疫チェックポイント阻害薬(体が持つ本来の免疫が働けるように促す作用がある)であるペムブロリズマブが治療選択肢となります。
生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異検査
生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異検査は、生まれたときから持っているBRCA1およびBRCA2遺伝子の変異を調べる検査です。BRCA1/2遺伝子は誰もがもっている遺伝子の1つで、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の原因遺伝子です。DNA修復に関わる重要な役割を持ちますが、BRCA1/2遺伝子の変異があるとDNA損傷の修復がうまくできず、乳がんや卵巣がんなどのがんのリスクが高まります。
生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異検査は、手術が難しい膵がん患者さんに対して健康保険での実施が可能です。血液検体を用いて検査を行い、検査結果は約2-3週間程度で判明します。膵がん患者さんにおける生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異検査陽性の割合は約4-7%と報告されています。生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異検査陽性の膵がん患者さんに対しては、白金製剤を含む化学療法(FOLFIRINOXなど)でがんの進行が抑えられた後の維持療法として、内服薬であるオラパリブ(がん細胞のDNA損傷修復を妨げ、がん細胞の増殖を抑える効果があります)への治療変更が選択肢となります。
生まれつき持っているBRCA1/2遺伝子変異は性別に関係なく、親から子へ1/2 (50%)の確率で受け継がれますので、検査で陽性となった場合には遺伝の専門家への相談が大切です。
がん遺伝子パネル検査
がん遺伝子パネル検査では、がん組織検体や血液を使って数十から数百のがん関連遺伝子に変化があるかどうかを一度に調べます。検査結果は「エキスパートパネル」と呼ばれる専門家の集まりで検討し、担当医はエキスパートパネルで話し合われた結果をもとに説明を行います。検査結果は約2か月程度で判明します。治療につながる遺伝子変化が判明する可能性は一般的には約10%といわれており、以下にお示しするような健康保険で使用可能な薬剤や特定の遺伝子変化に対する治療薬の治験が選択肢となる可能性があります。
<遺伝子変化に基づき、健康保険で使用可能な薬剤>
NTRK融合遺伝子:ラロトレクチニブ、エヌトレクチニブ
BRAF V600E遺伝子変異:ダブラフェニブ/トラメチニブ
RET 融合遺伝子:セルペルカチニブ
がん細胞のもっている遺伝子変異の量が多い(TMB-high):ペムブロリズマブ
二次的所見、遺伝カウンセリングについて
がん遺伝子パネル検査を受けた約5%の患者さんに遺伝性腫瘍の原因となる遺伝子の変化(二次的所見)が判明する、と報告されています。血縁者検査を受けることで、患者さん自身だけでなく、ご家族にも遺伝的リスクが判明する可能性があり、そういった場合には遺伝カウンセリングをお勧めする場合があります。遺伝カウンセリングでは、臨床遺伝専門医,認定遺伝カウンセラーが協力して、検査結果の解釈、ご家族への影響などについて十分な説明が行われます。
参考リンク:
・がん情報サービス
・がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査
Q1がん遺伝子パネル検査は、どのタイミングで実施するのが良いでしょうか?
がん遺伝子パネル検査は、標準治療が終了もしくは終了見込みとなれば提出可能となり、現状では実施時期の制限があります。これらの検査結果がその後のがん治療の選択に影響を与える可能性があること、検査結果判明までに時間を要することから、なるべく早期の段階から、その後の治療計画を考慮して最適な検査タイミングを検討することが重要と考えられます。担当医とよく相談して計画を立てるようにしてください。
Q2がん遺伝子パネル検査は、どこで受けられますか?
がん遺伝子パネル検査は、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院で受けることができます。がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院については、インターネット (https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/hospital_list/)で調べることができます。
現在治療を受けている病院が、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院でなくてもがん遺伝子パネル検査を受けることができますので、担当医と相談してください。