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本ガイドラインについて
本ガイドラインの目的
膵癌(『膵癌取扱い規約』(日本膵臓学会編,第5版,2002年)の浸潤性膵管癌を対象)は21世紀に残された消化器癌といわれ,近年,増加傾向にあって,その診断法や治療成績の改善が急務とされている。従来,膵癌に対しても種々の診断,治療法が開発されてきたが,その客観的な評価は十分にはなされておらず,診療における標準化はなされていないのが現状である。そこで,前述の組織によりガイドラインが作成されることとなった。
本ガイドラインの目的は,膵癌の診療にあたる臨床医に実際的な診療指針を提供するために,膵癌に関してEBMの手法に基づいて効果的・効率的な診断・治療法を体系化し,効果的保険医療を確立し,ひいては豊かな活力ある長寿社会を創造するための一翼を担うことである。わが国には,膵癌診療の全領域を網羅した,EBMに基づいた膵癌診療ガイドラインといった体系化されたものがないのが現状であった。本ガイドラインではEBMの手法により,膵癌に対して多方向から,各関係学会や各領域の第一人者によって文献を十分に検討し,体系化されたガイドラインを作成することに努めた。ただし,膵癌治療の現状は非常に厳しく,エビデンスレベルの高い論文は少ないため,エビデンスは現在ないが,将来に繋がりそうな試みなどを委員会の判断で加えた。本ガイドラインの対象は,膵癌診療にあたる臨床医である。一般臨床医が膵癌に効率的かつ適切に対処することの一助となり得るよう配慮した。さらに患者,家族をはじめとした一般市民にも膵癌の理解を深めていただき,医療従事者と医療を受ける立場の方々の相互の納得のもとに,より好ましい医療が選択され実行されることをも意図した。ガイドライン作成にあたっては,日本各地より,内科,放射線科,外科の専門家よりなる作成委員会が設置された。作成委員名簿は別項に掲載した。膵癌のステージ分類は欧米とわが国で異なる。本ガイドラインでは日本膵臓学会が2002年4月に発表した第5版『膵癌取扱い規約』に準じた。
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本ガイドラインを使用する場合の注意事項
本ガイドラインはエビデンスに基づき記載しており,それに基づいて推奨度を決定した。膵癌は乳癌や胃癌などのように診断や治療に対するRCTなどの情報が少なく,今後に残された消化器癌である特殊性のため,RCTはないが今後につながりそうな試みや作成員の個人的意見などを“明日への提言”として挿入した。また,記載内容が多岐にわたるので読者が利用しやすいように巻末に索引を設けた。
ガイドラインはあくまでも作成時点での最も標準的な指針であり,実際の診療行為を強制するものではなく,最終的には施設の状況(人員,経験,機器等)や個々の患者の個別性を加味して対処法を患者,家族と治療にあたる医師との話し合いで決定すべきである。また,ガイドラインの記述の内容に関しては膵臓学会が責任を負うものとするが,治療結果についての責任は直接の治療担当者に帰属すべきもので,日本膵臓学会および本ガイドライン改訂委員会は責任を負わない。なお,本文中の薬剤使用量などは成人を対象としたものである。
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ガイドライン作成法
第1回膵癌診療ガイドライン改訂委員会は第94回日本消化器病学会総会が北九州で行われた折り,2006年4月21日に北九州国際会議場で行われた。委員会の構成は前回同様とすることが確認され,名古屋大学の井上総一郎先生に代わり,名古屋大学の竹田伸先生が加わった。CQ設定は各分野のチーフを中心に分野ごとに前回のCQの見直しと追加を行い,2006年6月の膵臓学会で改訂委員会を開き,全員で検討し,さらに,膵臓学会会員にも意見を求めることが決まった。文献検索は東邦大学の山口直比古先生を中心に1990年以降の医学中央雑誌,MEDLINEを検索することとなった。また,構造化抄録は前回より使いやすくなったMindsの新たなフォーマットを用いることとなった。エビデンスレベル,推奨は前回同様,福井案を用いることとなった。診断の分野などエビデンスレベルのつけにくいものは無理につけずに,つけられるもののみ,つけることが決まった。2007年3月頃に膵臓学会会員を対象に,利用状況のアンケート調査を行うこととなった。最後に2009年3月発刊を念頭にした今後の予定(案)が示された。
第2回膵癌診療ガイドライン改訂委員会は第93回日本消化器病学会総会が青森で行われた折,2007年4月21日にホテル青森で行われた。①膵癌診療ガイドラインのアンケート調査中間報告,②改訂版膵癌診療ガイドラインのCQアンケート,③今後の日程の確認,が行われた。
第3回膵癌診療ガイドライン改訂委員会は2007年6月27日,西鉄グランドホテルで行われた。2007年4月:CQ決定,2007年4月25日:Mindsに2006年版膵癌診療ガイドラインを全面公開(膵臓学会ホームページとリンクされる),2007年6月:文献検索(2007年5月末まで)・文献選出・文献コピーの配布などの作業過程が確認された。
その後,担当者で構造化抄録作成,推奨,推奨文の作成が行われた。第4回膵癌診療ガイドライン改訂委員会は2008年1月19日,福岡東映ホテルで行われた。事前に各担当者により作成された各CQに対する推奨を話し合い,修正し,合意を得た。そうして作成された膵癌診療ガイドライン(案)について2008年5月10日第94回日本消化器病学会総会(福岡)および2008年7月31日第39回日本膵臓学会大会(横浜)で公聴会を行った。さらに,日本膵臓学会のホームページ(http://www.suizou.org/)に2008年10月末より11月末まで公開し,意見を伺い修正した。
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ガイドライン出版,作成ならびに評価に関する委員
:各分野チーフ
【日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会】
- 委員長: 田中 雅夫
- (九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科学)
- 副委員長: 船越 顕博
- (国立病院機構九州がんセンター消化器内科)
【診断法】
- 白鳥 敬子
- (東京女子医科大学消化器内科学)
- 山雄 健次
- (愛知県がんセンター中央病院消化器内科部)
- 中尾 昭公
- (名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学)
- 羽鳥 隆
- (東京女子医科大学消化器外科学)
【化学療法】
- 船越 顕博
- (国立病院機構九州がんセンター消化器内科)
- 奥坂 拓志
- (国立がんセンター中央病院肝胆膵内科)
- 中尾 昭公
- (名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学)
- 竹田 伸
- (名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学)
【放射線療法】
- 唐澤 克之
- (東京都立駒込病院放射線科)
- 砂村 真琴
- (大泉中央クリニック)
- 土井隆一郎
- (京都大学大学院医学研究科腫瘍外科学)
【外科的治療法】
- 山口 幸二
- (産業医科大学医学部第一外科)
- 中尾 昭公
- (名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学)
- 竹田 伸
- (名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学)
- 石川 治
- (大阪府立成人病センター外科)
- 土井 隆一郎
- (京都大学大学院医学研究科腫瘍外科学)
- 砂村 真琴
- (大泉中央クリニック)
- 梛野 正人
- (名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍外科学)
【補助療法】
- 石川 治
- (大阪府立成人病センター外科)
- 奥坂 拓志
- (国立がんセンター中央病院肝胆膵内科)
- 下瀬川 徹
- (東北大学大学院医学系研究科消化器病態学)
【ガイドライン評価委員】
- 今村 正之
- (大阪府済生会野江病院病院長)
- 尾形 佳郎
- (栃木県立がんセンター名誉院長)
- 古野 純典
- (九州大学医学研究院予防医学教授)
- 梅田 文夫
- (福岡市医師会成人病センター病院長)
- A氏
- (患者代表)
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文献検索
ガイドライン改訂委員会より示された5カテゴリー,25のクリニカルクエスチョンについて文献検索を行った。検索は各カテゴリーごとに1名の医学図書館員が担当し,初版のための文献検索以降すなわち2004年6月から7月以降2007年4月末までを検索対象期間とした。ただし,新規クリニカルクエスチョンや,キーワードの追加などもあったため,検索年限が異なる場合があった。検索したデータベースは,医学中央雑誌WebとPubMedである。言語は英語および日本語に限定したほか,研究デザインを考慮した場合もある。担当した医学図書館員は次のとおりである。
- 三浦裕子
- (東京女子医科大学図書館)
- 諏訪部直子
- (杏林大学医学図書館)
- 平輪麻里子
- (東邦大学習志野メディアセンター)
- 山口直比古
- (東邦大学医学メディアセンター)
東邦大学医学メディアセンター
山口直比古
本ガイドラインの構成
5つの「分野」に分け,それぞれ4〜6の「CQ」を設定した。CQごとに「文献検索と文献採択」において,文献の検索のデータベース,検索年限,検索日,検索方式,検索件数の記載をした。そして各CQに従って,「推奨」「エビデンス」「明日への提言」「引用文献」を記載した。「推奨」においては勧告事項をその推奨グレードとともに示した。また,「推奨」の科学的根拠を「エビデンス」として示した。膵癌は乳癌や胃癌などのように診断や治療に対するRCTなどの情報が少なく,今後に残された消化器癌である特殊性のため,RCTはないが今後につながりそうな試みや作成者の個人的意見などを“明日への提言”として挿入した。
エビデンスレベルと推奨度グレードの決定法は以下に示した。
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文献レベルの分類法と推奨度
Mindsより示された『Minds診療ガイドライン作成の手引き2007』(医学書院)をもとに行った。
- 「エビデンスのレベル」分類:質の高いものから
- 推奨度分類
○勧告の強さの決め方:以下の要素を勘案して総合的に判断する。
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1 . エビデンスのレベル
2 . エビデンスの数と結論のばらつき
(同じ結論のエビデンスが多ければ多いほど,そして結論のばらつきが小さければ小さいほど勧告は強いものとなる。必要に応じてメタアナリシスを行う)。
3 . 臨床的有効性の大きさ
4 . 臨床上の適用性
5 . 害やコストに関するエビデンス
○勧告の強さの分類:勧告の記述にはその強さを括弧内に明示する。
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A . 強い科学的根拠があり,行うよう強く勧められる
B . 科学的根拠があり,行うよう勧められる
C1 . 科学的根拠はないが,行うよう勧められる
C2 . 科学的根拠がなく,行わないよう勧められる
D . 無効性あるいは害を示す科学的根拠があり,行わないよう勧められる
「エビデンスのレベルの分類」
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Ⅰ. システマティックレビュー/RCTのメタアナリシス
Ⅱ. 1つ以上のランダム化比較試験による
Ⅲ. 非ランダム化比較試験による
Ⅳa . 分析疫学的研究(コホート研究)
Ⅳb . 分析疫学的研究(症例対照研究,横断研究)
Ⅴ . 記述研究(症例報告やケースシリーズ)
ⅤI . 患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見なお,複数のレベルがある場合は,エビデンスレベルの質の高いほうをとる。ただし,白人Caucasian研究に基づくレベルと日本人研究に基づくレベルが異なる場合などは,それぞれ別記する。
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改 訂
今後も医学の進歩とともに膵癌に対する診療内容も変化し得るので,このガイドラインも定期的な再検討を要すると考えられる。当面,このたびのワーキンググループで評価委員会による検証を繰り返していく。
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資 金
このガイドライン作成に要した資金は全て日本膵臓学会の負担と一部,平成17年度厚生労働科学研究費補助金医療技術評価総合研究事業「がん診療ガイドラインの適用と評価に関する研究班」(平田公一委員長,中尾昭公分担研究者)より助成を受けた。
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利益相反
膵癌診療ガイドライン改訂における利益相反の報告書を委員の方々に報告してもらったが,利益相反(日本癌治療学会「がん臨床研究の利益相反に関する指針」)に該当する事実はなかった。
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参考文献
- 科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン,金原出版,2004年
- EBMの手法による肺癌診療ガイドライン,金原出版,2003年
- EBMを用いた診療ガイドライン作成・活用ガイド,金原出版,2004年
- EBM実践ワークブック,南江堂,1999年
- 続・EBM実践ワークブック,南江堂,2002年
- 診療ガイドラインの作成の手順ver. 4.3,2001年
- 日本癌治療学会がん診療ガイドライン作成の手引き,2004年
- Minds診療ガイドライン作成の手引き,医学書院,2007年
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協力者
膵癌診療ガイドライン作成にあたっては先に挙げた委員のほかにも,下記の協力者の援助により作成された。
- 清水 京子,高山 敬子,小山 祐康
(東京女子医科大学消化器内科)- 杉木 孝章
- (東京女子医科大学消化器外科)
- 澤木 明,水野 伸匡
- (愛知県がんセンター中央病院消化器内科部)
- 田近 正洋
- (愛知県がんセンター中央病院内視鏡部)
- 井上 総一郎,粕谷 英樹,阪井 満,呉 成浩
(名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学)- 上野 秀樹,森実 千種,近藤 俊輔,小島 康志,松原 淳一,小倉 孝氏
(国立がんセンター中央病院肝胆膵内科)- 池田 公史
- (国立がんセンター東病院肝胆膵内科)
- 澄井 俊彦
- (国立小倉医療センター内科)
- 伊藤 芳紀
- (国立がんセンター中央病院放射線治療部)
- 澁谷 景子
- (京都大学医学部附属病院放射線治療科)
- 根本 建二
- (山形大学大学院放射線腫瘍学分野)
- 永倉 久泰
- (KKR札幌医療センター放射線科)
- 藤本 康二
- (京都大学大学院医学研究科腫瘍外科学)
- 竹田 伸,金住 直人,野本 周嗣,金子 哲也,粕谷 英樹
(名古屋大学大学院医学系研究消化器外科学)- 江川 新一,元井 冬彦
- (東北大学大学院医学系研究科消化器外科学)
- 上野 秀樹,森実 千種, 近藤 俊輔
- (国立がんセンター中央病院肝胆膵内科)
- 池田 公史
- (国立がんセンター東病院肝胆膵内科)