CQ1 診断法

CQ1-2 膵癌の臨床症状は何か?

臨床症状
  1. 腹痛が最も多く,次いで黄疸,腰背部痛,体重減少などがみられる。
  2. 初発症状がないこともある。
  3. 3年以内の急激な糖尿病(糖代謝障害)発症が約半数にみられる。
推 奨
  1. 他に原因のみられない腹痛,腰背部痛,黄疸,体重減少は膵癌を疑い検査を行うが(グレードB),有症状の場合は進行癌が多い。
  2. 急激な糖尿病(糖代謝障害)の発症や悪化は膵癌合併を疑い,検査を行う(グレードB)
    特に糖尿病発症後3年は注意を要する。

エビデンス

 初発症状として腹痛,黄疸,腰背部痛が多く,次いで体重減少,消化不良症状などである1)〜3)(レベルⅣb)。膵癌の局在から比較すると,頭部癌で症状の発現率が最も高く,黄疸63%,腹痛64%,体重減少53%がみられ,体部癌では腹痛が93%と最も高い4)(レベルⅣb)。また,膵癌患者の0〜15%に,腹痛や黄疸が発現する前に食欲低下(22%),搔痒感(6.6%),便通変化(4.9%),気分の変化(3.3%),嗜好の変化(1.6%)などの多様な非特異的症状が認められたとの報告がある5)(レベルⅢ)。わが国の膵癌集計によると,初発症状のない膵癌が15.4%であった2)(レベルⅣb)。2cm以下の膵癌では初発症状として腹痛が24.5%と最も多いが,18.1%が無症状という報告6)(レベルⅣb)もある。
 糖尿病はしばしば膵癌の既往歴にみられるが,膵癌が診断される前に糖尿病が発症していることが多く,膵癌患者187例での検討で先行2年以内の糖尿病発症が52.5%と高率に認められている7)(レベルⅠ)8)(レベルⅣb)。2cm以下の膵癌では糖尿病の増悪が8%に認められている6)(レベルⅣb)。また,50歳以上の糖尿病初発患者2,122名の約1%が3年以内に膵癌を合併したという報告9)(レベルⅣa)や,55歳以上の糖尿病初発群で,血糖,血中膵酵素,腫瘍マーカー,US所見でいずれかの異常を認めた時点で内視鏡的逆行性膵管造影を行ったところ,13.9%が膵癌と診断されたとの報告10)(レベルⅡ)がある。
以上のように,臨床症状から膵癌を早い段階で発見することは容易ではない。

明日への提言

 膵癌は特異的な臨床症状に乏しく,エビデンスの大部分は進行膵癌における症状分析結果に基づいたもので一部には無症状の症例もある。したがって,臨床症状は膵癌を早期に発見する指標にはならない。そこで,腹痛などの腹部症状を認める場合はもちろんであるが,それ以外にも上部消化管疾患が原因でないと思われる腹部症状がみられた場合,また,急激な糖尿病発症がみられた場合には,膵癌の可能性も考慮して診断のための検査(CQ1─3)を行うことが望ましい。

引用文献

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検索式

(1)
医学中央雑誌
検索年限 出版年2000〜2007
検索日 2007/5/28
検索式
#1
(膵臓腫瘍/TH or 膵臓腫瘍/AL)
#2
(膵臓腫瘍/TH or 膵臓癌/AL)
#3
(膵囊胞/TH or 膵囊胞/AL)
#4
(膵管癌/TH or 膵管癌/AL)
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(徴候と症状/TH or 徴候/AL)
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症候/AL
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主訴/AL
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#8 and #9
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#15 or #16 or #17 or #18
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#19 and (PT=症例報告除く,会議録除く CK=ヒト PDAT=2004/6/://)
#21
#20 and (SH=診断,画像診断,X線診断,放射線核種診断,超音波診断)
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(2)
PubMed
検索年限 出版年2004/7〜2007/5/18
検索日2007/5/28
検索式
#1
Pancreatic neoplasms[MeSH]
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symptoms[TI]
#3
signs[TI]
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#1 and #3
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#4 or #5
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Pathological conditions, signs and symptoms
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mass screening[MeSH]
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