ゲムシタビン塩酸塩は切除不能膵癌に対する一次化学療法として位置づけられているが，ゲムシタビン塩酸塩無効例や奏効後再燃例を対象として二次化学療法の臨床試験も開始されている。これまでに得られている二次化学療法についてのエビデンスを検証した。

検索範囲内でゲムシタビン塩酸塩治療後の二次化学療法の論文およびASCOでの報告は24本あり，24本中19本は対照を伴わない臨床試験またはケースシリーズ報告であった1）2）4）〜19）（レベルⅢ）3）（レベルⅣb）。残る5本20）〜24）は，ランダム化比較試験であり，論文としての報告は1本のみであった（レベルⅡ）（表6）。

Thymidylate synthase（TS）阻害剤であるraltitrexedとイリノテカンの併用療法とraltitrexed単独療法とを比べたランダム化比較第Ⅱ相試験では，併用群は単独群より奏効率（主要評価項目）が有意に良好であり，progression─free survival，生存期間，症状緩和効果（副次評価項目）も良好な傾向であることが報告されている20）（レベルⅡ）。2004年，ASCOではtopoisomerase I阻害剤であるrubitecanとphysician’s best choice（医師が最良と考える治療）とを比較するランダム化比較試験が報告されており，両群間の生存期間には有意差を認めていない21）（レベルⅡ）。さらに2005年，ASCOでは，5─FU，フォリン酸，オギザリプラチンの併用療法と無治療のランダム化比較試験が報告され，併用療法治療群の有意に良好な生存期間が報告されたが，登録患者が1群23例と小規模なものであり，大規模な第Ⅲ相試験による検証が必要と考えられた22）（レベルⅡ）。この同じ研究グループは2008年，ASCOにおいて，5─FU，フォリン酸，オギザリプラチンの併用療法群が5─FU，フォリン酸の併用療法群に比べ有意に良好な生存期間を示した160例を対象としたランダム化比較試験の成績を報告した23）（レベルⅡ）。また，2007年，ASCOではベバシズマブとドセタキセル併用療法群とベバシズマブ単独療法群を比べるランダム化第Ⅱ相試験の成績が示され，両群ともに奏効例はなく，生存期間の差も認めていない24）（レベルⅡ）。国内ではS─1が保険適応承認を受け，二次治療薬としての第Ⅱ相試験が報告され12）（レベルⅢ），実地臨床においても汎用されているが，本剤を二次治療薬として用いたランダム化比較試験は報告されていない。
　以上より，5─FU，フォリン酸，オギザリプラチンの併用療法はランダム化比較試験により延命効果を示した唯一のレジメンであり，今後この治療法が標準的な二次治療として国際的に認知されていくこととなるのかが注目されている。ただし，わが国ではフォリン酸，オギザリプラチンが保険適応外であるため，本レジメンによる化学療法を行うことは実質的に困難である。S─1などの保険適応内で投与可能な薬剤は二次化学療法薬として推奨するだけの十分な根拠は乏しいが，その有用性を示唆する報告もあり，PSの良好な患者に対して十分な説明と同意を得て実施することを否定するものではないと考えられた。

新薬の開発研究が精力的に行われており，これらの薬剤によって近い将来，標準的二次化学療法が確立することを期待したい。