CQ3 放射線療法
CQ3-5 放射線療法は切除不能膵癌のQOLを改善するか?
エビデンス
- best supportive care(BSC)
5─FU同時併用化学放射線療法群とBSC群とを比較した小規模なランダム化比較試験1)(レベルⅤ:抄録参照)の結果,生存期間中央値もKarnofsky Performance Scaleも化学放射線療法群がBSC群より有意に良好で,在院期間に有意差はなかったと報告されている。 - 化学療法
ランダム化比較試験の結果5─FUより優れているとされたゲムシタビン塩酸塩では,23.8%に症状緩和が得られたと報告されている(CQ2─1)。化学療法単独群,術中照射群,および外照射単独群を比較した小規模な非ランダム化比較試験の結果,化学療法単独では疼痛緩和は得られなかったとの報告がある2)(レベルⅢ)。 - 放射線単独治療
- 1)外照射単独
-
70〜72Gyの外照射単独放射線療法で68%3)の症例に(レベルⅣb),また30Gy/10分割の外照射単独放射線療法で75%4)の症例に疼痛緩和が得られたとの報告がある(レベルⅤ)。 - 2)術中照射単独
-
術中照射単独放射線療法で85〜95%の症例に疼痛緩和が得られたとする報告5)6)(レベルⅣb)や,術中照射単独放射線療法あるいはバイパス手術との併用で77〜81%の症例に疼痛緩和が得られたとの報告7)8)がある(レベルⅣb)。 - 3)外照射と術中照射の併用
-
外照射または術中照射のいずれか一方または両者の併用で,57〜90%の症例に疼痛緩和が得られたとの報告9)10)がある(レベルⅣb)。また,外照射と術中照射の併用で57〜64%の症例に疼痛緩和が得られたとの報告11)12)(レベルⅣb)や,外照射単独よりも術中照射を併用したほうが除痛効果が良好であったとの報告2)がある(レベルⅢ)。
- 化学放射線療法
前述の通り,5─FU併用化学放射線療法がBSCに優るとの小規模ランダム化比較試験1)の結果がある(レベルⅤ:抄録参照)。5─FU併用化学放射線療法で80%1)の症例に(レベルⅤ),またCDDP・5─FU併用化学放射線療法で78%13)の症例に疼痛緩和が得られたとの報告(レベルⅤ)がある。CDDP静注,CDDP・5─FU静注,またはCDDP・5─FU動注併用化学放射線療法で,52%に疼痛緩和をみたとの報告がある14)(レベルⅤ)。5─FU同時併用化学療法で,76%に鎮痛薬が不要になったとの報告がある15)(レベルⅣb)。
5─FU併用とゲムシタビン塩酸塩併用では,疼痛緩和効果に差はないとする非ランダム化比較試験の報告がある16)(レベルⅡ(GEM群との比較はⅢ))。 - 結論
これらの結果を総合すると,BSCに徹することは勧められない(グレードD)。放射線治療については,ランダム化比較試験による確認は行われていないが,外照射と術中照射のいずれか一方または両者の併用により疼痛緩和を期待し得る(グレードC1)。至適線量についてのエビデンスはない。化学療法でも疼痛緩和を期待し得る(グレードC1)が,ランダム化比較試験による確認は行われていないものの,放射線単独療法または化学放射線療法のほうが良好な効果が報告されている。化学放射線療法による疼痛緩和はBSCより優れており推奨できる(グレードB)が,放射線単独療法より優れているとのエビデンスはない。
悪性腫瘍に伴うさまざまな随伴症状,とりわけ癌性疼痛の原因療法として,放射線療法が果たしている役割は大きい。切除不能膵癌に伴う癌性疼痛に対しても放射線療法の有効性が期待できるかどうか検討を行った。
明日への提言
放射線療法が癌性疼痛に有効なことは日常よく経験される。癌性疼痛に対しては,鎮痛剤等の対症療法にとどまらず,抗腫瘍効果と除痛効果を併せもつ放射線療法を考慮する意義はあると思われる。
線量分割については,遠隔転移のない症例では,もし放射線治療が奏効した場合にはそれなりの予後が得られる可能性もあるため,晩期合併症にもある程度配慮した線量分割,すなわち1回線量2Gy前後の通常分割照射が望ましいと考えられ,最も報告の多い50.4Gy/28分割/5.5週もしくは50Gy/25分割/5週が推奨される。QOL改善目的の放射線治療では満足のいく疼痛緩和が達成される線量で十分であり,これ以上の総線量は要求されないと考える。
遠隔転移を伴う症例では,化学療法が主体となるが,放射線治療を用いる場合は50.4Gy/28分割/5.5週を基本として,予後に応じ40Gy/20分割/4週などのように総治療期間を短縮した治療計画とする。ただし,治療期間短縮のために1回線量を上げ過ぎると合併症が問題となる恐れがあるので,1回線量は高くとも3Gyにとどめ,その場合の線量分割は30Gy/10分割/2週とするのが妥当と思われる。なお,上記いずれの場合も照射野が広くなり過ぎないように注意が必要である。
引用文献
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検索式
- (1)
- 医中誌
- ①
- 検索年限 出版年2004〜2007
- ②
- 検索日 2007/5/22
- ③
- 検索式
- #1
- (膵臓腫瘍/TH or 膵臓腫瘍/AL) or (膵臓腫瘍/TH or 膵臓癌/AL) or (膵囊胞/TH or 膵囊胞/AL) or (膵管癌/TH or 膵管癌/AL) and (PT=会議録除く)
- #2
- 非切除/AL or 切除不能/AL or 手術不能/AL and (PT=会議録除く)
- #3
- (放射線療法/TH or 放射線療法/AL) and (PT=会議録除く)
- #4
- (生活の質/TH or 生活の質/AL) or (生活の質/TH or QOL/AL) or quality/AL and of/AL and (生命/TH or life/AL) or (生命/TH or 生命/AL) or (生命/TH or life/AL) or (無痛法/TH or 無痛法/AL) or (無痛法/TH or 除痛/AL) or (疼痛/TH or 疼痛/AL) or (疼痛/TH or 痛み/AL) and (PT=会議録除く)
- #5
- #1 and #2 and #3 and #4
- ④
- 検索件数5件
- (2)
- PubMed
- ①
- 検索年限 出版年2004/6/24〜2007/4/30
- ②
- 検索日 2007/5/22
- ③
- 検索式
- #1
- pancreatic neoplasms
- #2
- “non operative” or nonoperative or “in operative” or inoperative or unresectable
- #3
- meta─analysis[pt] or randomized controlled trial[pt] or controlled clinical trial[pt] or clinical trial[pt]
- #4
- QOL or “quality of life” or pain or “pain control”
- #5
- radiotherapy
- #6
- #1 and #2 and #3 and #4 and #5 and Limits:Entrez Date from 2004/06/24 to 2007/04/30, English, Japanese, Humans
- ④
- 検索件数3件